なぜ神余(かなまり)では伝統行事が復活したの?

神余かっこ舞

神余(かなまり)という土地をご存知でしょうか?
神が余ると書いて神余、なんだかご利益がありそうな名前ですね。
館山市南東部、周囲を山に囲まれた盆地にあり、のどかな里山の風景が広がる土地です。
歴史的には平安時代以降安房の歴史に重大な影響を与えた神余氏が治めた場所であり、古くから伝わる「かっこ舞」という伝統行事は現在もしっかりと受け継がれています。
今回はこの「かっこ舞」をはじめ、地域全体にスポットを当てて、神余の魅力を探ります。

(2012/07掲載:K)

神が余っている? 神余はこんなところ

日吉神社からの風景

神余地区は館山市の南東部を占める広い地域で、南は南房総市白浜に接しています。周囲を山に囲まれた盆地の中央に巴川(ともえがわ)が流れ、その両脇に小さな田畑が階段状に続いており、のどかな里山の風景が広がっています。
そもそも神が余るという名前からして何か神話の香りがしてきそうな気もしますが、じつはこの名前はもう少し単純なところから来ているようです。その昔、1つの郷(ごう)は戸数が50戸までと定められており、50を超えると分割され新たな郷が作られました。この郷は余戸(あまりべ)などと呼ばれますが、神余は神戸郷(かんべごう)という地区の余戸であると伝えられています。(『神余百年史』より)
平安時代の終わりごろから、土豪である神余氏(かなまりし)が活躍し、現神余小学校の北東側にはその城跡も残っています。この神余氏は「金丸氏(かなまるし)」とも呼ばれますが、坂上田村麻呂の関東平定に功を為した藤原宗光がこの土地を褒賞として与えられ、「金丸氏」(または「神余氏」)を名乗るようになったとされています。(『安房志』より)。

神余城跡(左奥の丘)

この地で有力な土豪となった金丸氏は平安末期の保元の乱(1156)では安西氏、丸氏といった安房の有力豪族たちとともに後白河天皇方で戦ったこともあり、また伊豆での戦に敗れた源頼朝が安房に落のびた際には頼朝を助け、鎌倉幕府開府にもひと役買っています。応永24年(1417)、家臣山下定兼の謀反により金丸氏は滅び、金丸氏の領土を奪って山下郡とした山下氏も嘉吉元年(1441)に安西、丸氏によって滅ぼされました。その際、安西家に身を寄せていた里見義実が活躍したことで白浜の城を譲り受け、これから170年間にわたって里見の時代を築いていきます。
ちなみに、この山下定兼の謀反劇は滝沢馬琴の『南総里見八犬伝』にも登場し、ここから物語が始まります。つまり、神余こそが八犬伝が生まれた地ともいえる訳です。いずれにしても、歴史の古い土地であることは間違いありません。(『金丸家累代鑑』より)

かっこ舞は雨乞い祭り

神余かっこ舞

さてこんな神余地区には200年以上の歴史を誇る伝統芸能が残されています。それが日吉神社の例祭で奉納される「かっこ舞」です。市の無形文化財にも登録されているこの伝統芸能、いったいどのようなものなのでしょう。
かっこ舞とは、東日本に広く伝わる雨乞いの踊りです。安房地方でも江戸時代より盛んに行われていましたが、明治から昭和にかけて少しずつ姿を消し、昭和43年時点で34ヵ所が残っていたという記録があります。それが現在では神余を含む6ヵ所で奉納されているにすぎません。館山市だけでいうと、ここ神余と青柳の2ヵ所でのみ、この「かっこ舞」を見ることができます。

ささら

神余のかっこ舞は、獅子頭をつけた3人の男子、花笠をかぶって「ささら」をすりならす4人の女子、大太鼓1人、しめ縄持ち2人、笛師数人によって演じられます。演目は、大注連張り、踊り込み、中獅子舞、親獅子舞、三匹舞、きり舞、二匹舞、三匹舞の8部構成。2匹の雄(親獅子、中獅子)が1匹の雌(雌獅子)を奪い合い、最後に仲直りするというストーリーになっています。ちなみに3匹の獅子のうち歯が黒いのが雌で、「ささら」をする音は蛙の鳴き声や風に揺れる竹の音を、花笠から垂れる5色の紙は雨だれを示し、太鼓は雷鳴、笛は風の音とされています。また、「かっこ」は「羯鼓」と書かれますが、これは獅子が腰に下げた小さな太鼓のことで、かっこ舞の呼称はここから来ています。

獅子頭

かっこ舞が奉納されるのは毎年7月19日と20日に行われる日吉神社の例祭です。今年も2日間にわたって開催され、19日午後は日吉神社の境内で、20日には町内7ヵ所を練り歩き順に舞ったのち、最後にもう一度日吉神社境内にて奉納されます。

かっこ舞の復活、保存活動で知名度アップ

昭和22年ごろのかっこ舞

以前は安房地域だけでも数多く奉納されていた「かっこ舞」が徐々に姿を消してしまったのは、時代の流れを考えると仕方がないのかもしれません。神余のかっこ舞もこれまでに何度か中断の憂き目に遭い、戦後の昭和25年からしばらく途絶えていました。それを、昭和49年に地元高校生有志による団体「あすなろ会」が復活させ、現在へと受け継がれてきました。今では地元の人たちからなる「神余かっこ舞保存会」が積極的な保存活動を展開し、地域が誇る伝統行事を将来につなごうと、日々努力をしています。この保存会は多くの地域住民が会員となっており、地域の祭礼以外にも発表の場を増やしています。

あすなろ会のメンバー(市の広報誌より)

たとえば今年でいえば、第5回安房の伝統芸能祭り(2月26日)、第14回あわ夢まつり(6月3日)などのイベントに参加したほか、5月3日には明治神宮春の大祭でも奉納しました。また、今年の10月には千葉県南総文化ホールで開催される「第54回関東ブロック民俗芸能大会」にも「洲崎のミノコオドリ」とともに千葉県の代表として出演することが決定しています。
地元での定期的な舞や笛の練習に加え、祭礼以外でも目にすることが多くなった神余のかっこ舞。保存活動の現状を保存会の会長と事務局長さんに伺ってみました。

神余かっこ舞

保存会の会員は地域の人たちで、会員数は300名ほど。現在のような積極的な活動を展開できるのも地域の人たちの理解があってこその結果だといいます。舞の踊り手は「あすなろ会」という地元高校生の団体で、今年の会員数は11名。高校1年生から練習に参加し、神社の奉納やそのほかのイベントで舞を披露します。年によっては「あすなろ会」の現役高校生だけでは踊り手の数が足りないこともあり、その場合はあすなろ会OBも踊りに加わることもあります。
地域の少子化は確実に進んでいるとのことですが、子供たちは活動を通じて小学生ごろからかっこ舞に興味を持つようになり、地域外で発表するようになったことが担い手の自信と誇りにもつながっており、今のところ後継者不足は特に心配はしていないということでした。
神余は他の地域に比べると地域全体がよくまとまっており、さまざまな事柄に対して全員が一丸となって取り組んでいます。どうやら、こうした土地柄も、伝統芸能を将来につなげるのに役立っているようです。今年の祭礼は7月19日と20日。まだご覧になったことがない方は、一度神余の日吉神社に足を運んでみてはいかがでしょうか。

見どころもりだくさん、神余の里山風景を歩く

神余地区はこの「かっこ舞」のほか、里山ウォークの舞台としても人気が出そうな気配です。今年の冬には日本エコウォーク環境貢献推進機構(JECO)主催によるウォークツアーが実施されたほか、例祭当日には、以前にも紹介したことがある「また旅倶楽部」による歴史ウォークツアーも開催されます。当日申込みも可能ですので、お時間がある方はぜひご参加を。
今回はこれらツアーのコースに組み込まれるものを中心に、神余に点在する歴史遺産を少しだけ紹介させていただきます。

神余城跡(かなまりじょうせき)

如意輪観音

平安時代末期から鎌倉時代までこの地を治めた金丸氏の城。天守台があった山頂は曲輪(くるわ)になっており、周囲に土塁が築かれています。入り口の墓地には元禄6年(1693)の如意輪観音があり、16人の女性の名があることから、十九夜・二十夜・二十一夜などの月待ち供養として建てられ、安産や子育ての無事を願ったものとされています。金丸氏の館は現神余小学校敷地にあったようです。

日吉神社(ひよしじんじゃ)

日吉神社

旧豊房村の村社。祭神は大山咋神(おおやまくいのかみ)。804年に金丸氏によって創建されました。階段を上りきった先にある拝殿前の境内でかっこ舞が奉納されます。

弘法井戸(こうぼういど)

弘法井戸

川にある塩水の出る井戸。塩井戸とも呼ばれ、県の民俗文化財に指定されています。808年11月、この地を訪れた弘法大師が貧しい農家に食物を乞うた際、塩気のない小豆粥でもてなされました。これに同情した弘法大師は小川のほとりに杖を突きたて、この塩井戸を噴出させたといわれています。この塩水は天然ガスを含んだもので飲料としては利用できません。井戸の上流に架かる塩井戸橋は、館山では珍しい石積みのアーチ橋です。

山下城跡(やましたじょうせき)

金丸氏の家臣だった山下氏が、金丸氏を滅ぼした後に居館を築いた場所。高さ50mほどの丘で、山頂付近には広々とした郭があり、そこに館があったと思われます。

 

神余里味発見伝ウォーキング

神余里味発見伝ウォーキング

祭礼当日に開催されるガイド付きウォーキングツアー。「また旅倶楽部」の深くて軽妙なトークとともに神余の歴史に触れてみてください。祭礼では神社で奉納される「かっこ舞」や神輿の準備の様子も見学できます。

日時:7月19日(木)10:00集合(集合場所:神余小学校前臨時駐車場 ※目印に「神余里味発見伝」の幟旗があります)
行程:臨時駐車場~弘法井戸(県指定民俗文化財)~山下城跡周辺~神余城跡~日吉神社(昼食・かっこ舞奉納13:00~見学,大人御輿渡御15:00~)
御輿担ぎ出し後解散(15:30頃)
参加費:700円 地元食材を使ったお菓子(試作品)付き。受付にて集金します
申込・問合せ先:また旅倶楽部 電話0470-28-5086
主催 神余里味発見伝協議会 後援 館山市

また、また旅倶楽部では定期的に館山市のウォーキングツアーを開催予定です。神余のツアーも開催される予定ですので、今回都合がつかない方はぜひチェックしてみてください。


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