なぜ館山の富士山は大きいの?

朝焼けの富士山(北条海岸より)

館山市北条海岸。
「鏡ケ浦」とも呼ばれる館山湾に面したこの海岸は、
日本の夕陽百選にも選ばれている夕陽の名所でもあります。
絶景の理由の1つが海の向こうに雄々しくそびえる富士山。
意外なほどに大きく見えるその訳を、
館山の富士見スポットを巡りながら考えてみましょう。

(2011/11掲載:K)

富士山まで110km。それでもこんなに大きく見える!

世界に誇る名峰富士。標高3776mのこの山は日本のシンボルでもあり、われわれ日本人の心の拠り所でもあります。この富士山、館山からも見えるということは意外に知られていないようです。しかもかなりの大きさで。今回は1度見た人の心をわしづかみにする「館山、富士のある風景」に迫ります。
富士山から館山までは直線距離で110kmあまり。富士山から東京駅までがちょうど100kmですからそれよりほんの少しだけ遠いことになります。首都圏近郊にお住まいの方なら富士山を見る機会はかなりあるはずですが、ビルの谷間に、あるいは隣家の屋根越しにほんの少し小さく見えるだけという印象が強いと思います。ところが、ここ館山から見る富士山はちょっと驚いてしまうほどに大きい。写真だとうまく伝わらないかも知れませんが、「感覚的に」かなり大きく見えるのです。もちろん富士の裾野から見る迫力には及びませんが、なかなかの絶景なのです。

夕陽が大きく見えるのと同じ理由?

ところで、夕陽はなぜ大きく見えるのでしょう? この理由を説明できる方はいらっしゃいますか? 天頂の太陽よりも水平線近くの太陽のほうが大きく見えるという、あの不思議な現象についてです。これまでもさんざん議論がなされているものの、いまだに解決されていないミステリーの1つ。「大気中の水蒸気がレンズの役割を果たすから」「空には対象物がないから小さく見える」「赤い色が夕陽を大きく見せている」など、さまざまな説が飛び交っています。目の錯覚であることだけは間違いないようですが、万人を納得させるだけの説明ができる人はまだいません。

富士山周辺地図

では館山の富士山はなぜ大きく見えるのでしょう?これも難問の様相を呈していますが、正解を導く鍵は「海の上に見える」ということでしょうか。そうなのです、館山は富士山を太平洋越しに見ることができる数少ないポイントの1つなのです!
日本地図が頭に入っている人以外はピンとこないかもしれませんが、地図で確認すると一目瞭然! どうです? 他の富士見スポットとはひと味違うことがはっきりとお分かりいただけたでしょう?

コラム「太平洋と東京湾の境はどこ?」

「富士の似合う街」で絶景を訪ね歩く

鏡ケ浦図(江戸末期)

そんな訳で館山は富士山が似合う街だということがお分かりいただけたかと思います。たとえば、鏡ケ浦を描いた古い絵がいくつも残されていますが、どの絵にもしっかりと富士山が描きこまれています。富士のある風景は今と変わらず、昔の館山の人にとっても自慢の1つだったに違いありません。
では富士山はどこから見るのがいいのでしょう? 実際のところ、館山のほとんどの海岸線から見ることができますし、少々内陸に入ったところにも絶景スポットは存在します。ここで代表的な富士見スポットを、写真とともにいくつか紹介していきましょう。
まずは冒頭で挙げた北条海岸。ここは海岸線が長く、駅からも至近。海沿いには駐車場もあるのでアクセスのよさからもイチ押しスポットといえます。「関東の富士見百景」の1つでもあり、その景観には定評があります。

次におすすめなのは、同じく富士見百景の城山公園。館山の街や鏡ケ浦全体を一望できる高台の展望台で、近景から遠景までを立体的に楽しめます。

3つめは同じく富士見百景の伊戸下芝。太平洋の荒磯越しに富士の姿を見ることができるポイントの1つです。正面には伊豆大島を筆頭に伊豆七島の姿もくっきりと見ることができます。

ちょっと変わったところでは洲崎神社はいかがでしょう? この神社は洲崎灯台近くの山の中腹にありますが、鳥居にすっぽりと収まるように富士山が見えます。鳥居は2つあり、海側の「一の鳥居」からが絶景です。神社そのものも由緒ある場所ですので参拝もお忘れなきよう。

同じように鳥居越しに富士山が見える神社としては布良崎神社があります。こちらは残念ながら電線と電柱がちょっと邪魔をしているため、絶景とまではいかないようです。

雪化粧の富士と夕陽の富士。冬こそが絶好の観賞シーズン

相浜からの富士

さて、館山から見る富士山のすばらしさや絶景スポットはよくお分かりいただけたと思います。ここでは、もう一歩踏み込んで「いつ行けばいいの?」という問いにもお答えしちゃいましょう。
まず季節的には空気が乾燥する冬がベストシーズンです。もちろん夏でも見えることもありますが、確率はうんと低くなります。しかも館山から見えるのは富士山の南東側ですので、雪が融ける6月から12月ごろまでは見えたとしてもほとんど真っ黒な姿しか拝むことができません。時間帯としては、順光になる午前中と夕陽に染まる夕方が狙い目です。特に午前中なら早い時間ほど空気が澄んでいることが多いようです。
一般的には風景の撮影は雨上がりが絶好のチャンスとされていますが、これは雨によって大気中の塵などが洗い流されるため。空気がきれいな館山でもこの法則は当てはまりますが、雨上がり直後は湿度が高いために風景がにじんでしまうことがあります。

ではいつがいいのかというと、ずばり、低気圧が通過した後の西高東低の冬型気圧配置の日です。大陸から北西の風が吹き込むと空気が乾燥しますので、空はくっきり、海もくっきり、絶好の撮影日和になります。
冬の館山は「大西」と呼ばれる強い西風が吹き荒れることもしばしばですが、こんな日はちょっと条件が悪いようです。波の飛沫の影響もあってか風そのものが湿気を含んでおり、すっきりした視界は得られません。
冬の海岸は冷たい風にさらされていますので、撮影の際には万全の防寒対策でお出かけください。また、強風時に望遠レンズで夕景を狙うなら、風に負けない頑丈な三脚もあったほうがよさそうです。

で、謎の答えは??

さて、そろそろ謎の答えを考えていきましょう。
まず1つ考えられるのは、館山から見た富士山は手前に余計な障害物がないため裾野から山頂までがくっきりと見えているのではないかということ。都心から見る富士山は下の方がビルなどで隠れているため小さく感じるのではないでしょうか。
もう1つは、目のズーム機能が影響しているのではないかと思います。人間の目はかなり優秀なレンズで、一瞬のうちに対象物にピントを合わせると同時に視野角を調節します。手前に何かがあると、それを見ようとするため視野は広角気味になり、遠くの富士山は小さく感じます。逆に手前に何もないと富士山だけを見ようとするので、視野角が狭くなり、いわゆる望遠レンズで見たような感じになります。つまり大きく見えるということですね。

さて、こんな風にいろいろと考えを巡らせてきましたが、かなり有力な手がかりにたどり着きました。
まずは下の写真をご覧ください。これは以前撮影した船橋市からの富士山です。12月、クリスマス前の寒い朝でした。上から下まで真っ白に雪化粧していますね。なかなかの迫力だとは思いませんか?

船橋からの富士

船橋からの富士

ところがこの富士山、裾野の方までくっきり見えているようにも思えますが、実はこれ、上の方のほんの一部だけなのです。
全体はというと…

船橋からの富士 全景

こちらです。富士山の手前に見える丹沢の山々がちょうど衝立てのように富士の裾野を、裾野どころか6合目ぐらいから下をすっぽりと隠してしまっていますね。これでは大きく見える訳がありません。ではもう1度館山の富士山を。

洲崎からの富士

ほら、全然違うでしょう? 大きく見えるというよりも、見えている部分そのものが大きかったのですね。整った円錐形をしている富士山だからこそ起こりうる目の錯覚とでもいいましょうか。さらに、館山から見た富士山は手前の山々さえも富士の一部のように見えなくもありません。しかも、手前の山々はもっとぼやけていることがほとんどですので、そうなるとさらに大きく見えてしまうという訳です。

いかがでしょう? 納得いただけたでしょうか?

ともあれ、ややこしい理屈は抜きにして、ぜひ一度館山の富士山を見に来てください。その迫力ある姿を前にすると「なぜ?」なんて疑問は吹き飛んでしまいますから。

館山の「富士見スポット」はこちら!

最後になりましたが、上で紹介した館山のおすすめ富士見スポットをもう少し詳しく紹介しておきます。館山においでの際には、富士山は要チェックですよ。

コラム「浅間神社が富士見スポット?」

北条海岸

鏡ヶ浦を望み「日本の夕陽百選」「関東の富士見百景」「東京湾100選」など名だたるタイトルを持っている絶景の海岸。ヨットやウインドサーフィンなどのマリンスポーツも盛んで、夏には海水浴場としても賑わいます。毎年8月8日に行われる館山湾花火大会のメイン会場となるほか、さまざまなイベントが開催されます。

城山公園

市内を見下ろす高台にある公園で頂上付近が絶好の展望台になっています。館山の街と鏡ヶ浦、さらには伊豆半島を遠望できる館山屈指の眺望スポット。山頂に立つ3層4階の天守閣様式の建物は里見氏の城をイメージして造られたもので、現在は『南総里見八犬伝』の資料館。

伊戸下芝

「白砂青松100選」にも選ばれている平砂浦海岸の富士見スポット。東に伊戸漁港を望み、正面には大島をはじめ伊豆七島の姿もくっきり。海の駅「伊戸だいぼ工房」の駐車場から磯にアクセスできます。

洲崎神社

太平洋と東京湾とを分ける洲崎の山の中腹にあり祭神は比理乃咩命(あまのひりのめのみこと)。江戸時代に安房国一宮になった由緒ある神社です。戦に負けて伊豆から落ち延びた源頼朝がここで再起を図り必勝を祈願したことから「リベンジの神様」としても脚光を浴びつつあります。

布良崎神社

歴史は古く、神話の時代に阿波忌部氏とともにこの地に上陸した天富命(あめのとみのみこと)がこの地に安房神社を創建。717年に安房神社が移転したのち、その跡地に建てられたのがこの神社です。2つの鳥居の間にちょうど富士山がすっぽり収まるように設計されています。

もし時間に余裕があればハイキングがてら富士山観賞もいいかも知れません。野鳥の森はハイキングコースとしてもおすすめです。写真では富士山が写っていませんが、なかなかの絶景ですよ。

館山野鳥の森

安房神社の背後にある緑豊かな森。園内には5カ所の展望台があり、天気がよければ平砂浦海岸の向こうに富士山が見えます。

他の地域同様、館山においても富士山は信仰の対象となり、江戸時代には富士講も広く伝わりました。富士山信仰の神社として有名なのは「浅間神社」。静岡県富士宮市にある富士山本宮浅間大社を総本山とし、全国至るところにその名前が見られます。城山公園の山頂や香(こうやつ)地区、真倉浅間山山頂など、館山にもいくつかの浅間神社があり、いずれも富士山を神格化した浅間大神(あさまのおおかみ)や、木花之佐久夜毘売命(このはなのさくやひめのみこと)などが祀られています。また、神社でなくても小さな石の祠などが「せんげんさま」として祀られている場所も数多くあります。
これら浅間神社や「せんげんさま」の共通点は、富士山が見える場所にあるということ。つまり浅間神社は富士見スポットでもあるのです。建物や林など、周囲の環境の変化によって現在では見えなくなってしまった場所も多くありますが、「浅間」という名前は富士見スポット探しの手掛かりとなる訳です。ドライブの途中に各地の「浅間さま」を訪ねてみるのも一興ですね。
(写真:城山公園の浅間神社)

文中で「太平洋越しに富士山が見える」と表現しましたが、太平洋と東京湾の関係について少々補足しておきましょう。まずは右の地図をご覧ください。一般的には三浦半島の観音崎と房総半島の富津岬を結んだ線の北側、つまり赤く示した部分が東京湾と呼ばれます。その南側の青い部分、館山市洲崎と三浦市剱崎を結ぶラインの北側は浦賀水道と呼ばれます。広い意味では両者をひっくるめて東京湾と呼ぶこともあります。
館山のほとんどの海岸線から富士山を望むことができますが、洲崎より北側から見る富士山は厳密にいえば「浦賀水道越しの富士山」あるいは「東京湾越しの富士山」と表現するのが適切なようです。洲崎から布良(めら)にかけての海岸線から見る富士山は正真正銘の「太平洋越しの富士山」ということになります。



富士山の絶景スポット

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